研究の背景

研究の背景と目標

わが国では、平均寿命の延長と少子化に伴う超高齢社会の到来によって、いかに健康のまま寿命を全うするかが個人の、そして社会全体の重要課題になっています。栄養学という学問は、望ましい食のあり方を我々に示してきました。栄養学の科学的根拠に基づいて策定される「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)は、我々が「どの栄養素をどれだけ食べたら良いか」を示すことで、特に管理栄養士が行う「集団を対象にした食事提供の場」(病院や学校給食、社員食堂など)において、国民の健康の維持・増進に貢献しています。しかし、「基準値」を「食事」に「翻訳」するためには栄養学の専門知識が不可欠であるため、その専門知識をもたない一般の人々の食卓において、栄養学の成果が活用される機会はほとんどありません。栄養や食品についての情報がこれだけ氾濫している現在において、今なお「今後の食生活で特に力を入れたいこと」の1位が「栄養バランスのとれた食事の実践」であり、「食品の選択や調理について今後身につけたい知識」の1位が「健康に配慮した料理の作り方」であることが、この現実を反映しています(内閣府「食育に関する意識調査」平成24年公表)。
 そこで、本研究では、栄養学の手の届いていない一般の人々の食卓に照準を合わせ、栄養学の知識がなくても健康的な食生活を送ることができる食支援システムの構築を目指します。


オーダーメイド栄養学の必要性

身体状況、健康状態、遺伝的背景、生活習慣などの個人のもつ体質等が、その人の栄養状態や将来の疾病罹患リスクに大きな影響を与えることは、よく知られています。そのため、これらの体質等を十分に考慮した個人対応型の「オーダーメイド栄養学」の必要性が以前より提唱されています。しかし現実には、国民の大多数を占める未病の一般の人々の栄養管理を個人単位で行う方法論がないために、食の目指すべき将来像である「オーダーメイド栄養学」は、未だ実用化には至っていません。既存のいわゆる「健康レシピ提案システム」は、栄養素摂取量(特にエネルギーや脂質の摂取量)に基づいたものであり、個人の体質等を考慮したものではありません。また、「個人対応」や「オーダーメイド栄養学」を謳った既存の食事指導は、特定遺伝子の一塩基多型(SNP)のみを根拠としているもので、身体状況や健康状態を考慮した本来の意味での「オーダーメイド栄養学」ではないのです。

オーダーメイド栄養学の実現に向けて

私たちは、「オーダーメイド栄養学の実現」という命題を掲げて模索する中で、「IT技術の活用」「食事要件の類型化」によって、「オーダーメイド栄養学」の実践が可能になるとの発想を得ました。すなわち、食事要件に影響を与える個人の体質等を科学的根拠に基づいて分類・整理すると、未病の日本人の体質等は、実際には対象者の人数よりもずっと少ない数のパターンに集約でき、それぞれに対応した栄養素データベースの作成が可能であると考えたわけです。そこで、本研究ではこの発想を基盤にして、国民の大多数を占める一般の人々の栄養管理を個人単位で行うための方法論の構築を試みます。そして、将来は、この方法論を用いて「栄養学の専門知識のない一般の個人が、自分に合った健康的な食生活を送ることができる」システムを構築します。
 本研究は、未だ実用化には至っていない一般の個人を対象にした「オーダーメイド栄養学」の、貴重な実践例の第一歩になると確信します。

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